ヴァージニア・ウルフ 『灯台へ』
2009.05.02 [ Edit ]

イギリスの女性作家、ヴァージニア・ウルフ(1882〜1941)が、1927年に発表した長編小説 『灯台へ』 を読んだ。
(僕が読んだのは、上の画像の、古書店で手に入れた昭和31年刊行の新潮文庫版。表紙は旧字体だが、本文は新字体で書かれている。)
スコットランド西部(大西洋側)にあるスカイ島を舞台に、別荘に住むラムジー(ラムジイ)夫妻と8人の子供たち、夫妻の友人・知人が登場する。
小説は3部構成になっている。全体の半分以上を占める第1部は、ラムジー夫人が6歳の息子ジェームズを連れて、別荘から望む小島の灯台を見に行く前日の話(悪天候のため中止となる)。 第3部は、ラムジー氏が娘のカムとジェームズを連れて、小舟に乗って灯台へ行く話となっている。
問題なのは第2部で、わずか20ページ程度の長さなのに、10年の歳月が流れ、ラムジー夫人と子供たちのうち二人が死ぬ。まるでビデオテープの早送りのような超展開なのだ。(ちょうどこのあいだに、世界大戦をはさんでいる。)
意識の流れ - Wikipedia
本作のキーワードは、“意識の流れ” である。
何の説明も紹介もなしに、いきなり複数の登場人物の心理描写から始まる(そして最後までそれが続く)ため、最初はとっつきにくいのだが、読み進めるうちに人物や人間関係などがちゃんとわかる仕組みになっている。そして、最後は感動する。
登場人物も、一人ひとりが実に魅力的だ。特に、スポットライトを浴びるラムジー夫人とリリー・ブリスコウ(素敵な名前だと思いません?)という二人の女性の、対照的な生き方が深い印象を残す。
1927年といえば、日本では芥川龍之介が 『歯車』 を書いた年にあたる。それまでにないぶっ飛んだ小説が、世界的に多く書かれた時代だったのかもしれないと思う。
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鴻巣友季子による新訳版が出たばかり。これは読みたいと思っている。
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入手しやすいのは、御輿哲也訳の岩波文庫版。これも評判は良いようだ。
スポンサーサイト樋口一葉 『われから』
2009.04.30 [ Edit ]
それにしても、不条理な結末であり、誰も救われない。
追記
検索したら、こんなページが。御承知のように明治学院大学の前身となる明治女学校に集まった青年たちが「文学界」の同人です。西洋文学に通じ、プロテスタントとしてキリスト教信仰を持っている近代的なインテリの始まりのような人々です。そのなかには北村透谷もいたし、島崎藤村もいた、馬場孤蝶、戸川秋骨、平田禿木、星野天知といった人々がいました。彼等は『にごりえ』のお力が住んでいたような一葉最晩年の丸山福山町の銘酒屋に隣接した家をサロンのようにして集まっていたんです。彼等は一葉のことを、小説『やみ夜』のヒロインにちなんで「お嵐さま」とか、『嵐が丘』にちなんで「ブロンテ」などと呼んでいたそうです。この「文学界」同人の前にいた一葉の姿。
フェミニズム的文学論の”今”―樋口一葉研究を例に―
樋口一葉はやっぱり『嵐が丘』を読んでいたに違いない!
追記・2
読み終わったときは、「『嵐が丘』 に似てるなあ」 と漠然と感じた程度だったのだけれど、あとからじわじわ効いてきて、とうとう数日後の夢に出てきた。夢の中で、僕はある登場人物になっていたのである。ひどくうなされたらしく、びっしょりと汗をかいて目覚めた。
あらためて、すごい小説だと思った。
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樋口一葉 『ゆく雲』
2009.04.30 [ Edit ]
……手跡によりて人の顏つきを思ひやるは、名を聞いて人の善惡を判斷するやうなもの、當代の能書に業平さまならぬもおはしますぞかし、されども心用ひ一つにて惡筆なりとも見よげのしたゝめ方はあるべきと、達者めかして筋もなき走り書きに人よみがたき文字ならば詮なし、お作の手はいかなりしか知らねど、此處の内儀が目の前にうかびたる形は、横巾ひろく長(たけ)つまりし顏に、目鼻だちはまづくもあるまじけれど、鬂(びん)うすくして首筋くつきりとせず、胴よりは足の長い女とおぼゆると言ふ……
父親の手紙を代筆したばかりに、娘のお作は許婚・桂次の下宿先へ送った手紙を読まれ、その筆跡のみから器量、体型に至るまで、下宿先の後妻からひどいことを言われてしまう。桂次もまた、お作のことを頓死すれば良いのにと罵る。
あまりの悪口雑言に、僕は思わず笑い出してしまったのだが、本作はそもそも喜劇である。
ひどい言われようのお作は、最後まで登場しない。しかし、桂次を婿に迎え、それなりに幸せに暮らしているように思われる。桂次がかつて「のぼせて」いた下宿先の娘・お縫は一人取り残されて、笑みを浮かべるのは隣の寺の観音様ばかりである。
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樋口一葉 『大つごもり』
2009.04.30 [ Edit ]
身分制度や貧困といった深刻な問題を背景に、次第にある状況へ追い詰められていくお峯の心理と葛藤の描写が素晴らしい。しかし、最後はちょっと意外な方向へ展開し、粋な結末を迎える。
優れたショートストーリーである。
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樋口一葉 『十三夜』
2009.04.30 [ Edit ]
外なるはおほゝと笑ふて、お父樣(とつさん)私で御座んすといかにも可愛き聲、や、誰れだ、誰れであつたと障子を引明けて、ほうお關か、何だな其樣な處に立つて居て、何うして又此おそくに出かけて來た、車もなし、女中も連れずか、やれ/\ま早く中へ這入れ、さあ這入れ、何うも不意に驚かされたやうでまご/\するわな、格子は閉めずとも宜い、私(わ)しが閉める、兎も角も奧が好い、ずつとお月樣のさす方へ……
旧暦九月十三日の月夜を十三夜という。
主人公・お関は金持ちの男に見初められ嫁に行ってから七年、十三夜の夜に一人実家へ帰ってくる。彼女は息子が生れて後、夫からひどい扱いを受け続けていると打ち明け、離縁状を書いてくれと云う。お関の肩をもつ母。いや我慢しろと説得に出る父。結局、父のいうとおり、「鬼のやうな良人」の元へと戻る決心をするお関。
と、ここまでが本作の前半である。後半は一転、事態は別の次元へ展開していく。
悲劇的な物語だが、最初から最後まで明るい月がすべての人々を照らしている。 冷徹さえ感じさせる月明かりだが、そこに苦悩する人間を見つめる作者の優しい眼差しを感じた。
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