卒業式・一九七九
2009.03.07 [ Edit ]
高校の卒業式の最中に、ちょっとした事件があった。
僕が通っていた高校は都立である。今はどうか知らないが、当時はちょっとした受験校だった。1970年代の後半をどっぷりとこの学校で過ごしたわけだが、当時の都立高校は、70年代初めまで吹き荒れていた学園紛争(そう、高校にも紛争があったのだ)の嵐はとっくに消え去り、無気力・無責任・無感動の 《三無主義》 が定着していた――そんな時代の話である。
私服の学校だったのだけれど、昔は制服があって、学園紛争の頃の生徒会が学校当局と戦った末に、「服装の自由」 を勝ち取ったのだ、という噂というか伝説というか、そういう話が生徒たちの間に伝わっていた。
私服(生徒手帳には 「自由服」 と書かれていた気がする)だから、僕はふだんジーンズを履いて登校していた。ぱりっとしたブレザーにスラックスの者もいた。女子の服装はもっと幅が広く、ちょっとヤンキーがかったのから、スーツにパンストの子までいた。しかし、「自由服」 という建前上、常識的な範疇なら何を着ても構わないはずなのに、あえて詰襟の学生服(いわゆる学ラン)を着用するのは、かなり勇気が必要だった。学年に数名、学ラン着用者がいたのだが、彼らが何を考えているのか、僕にはわからなかった。
さて、卒業式である。
さすがにジーンズというわけにいかず、僕は初めて買ったスーツを着て、卒業式に出席した。他の大部分の生徒も男子はスーツかブレザー、女子はスーツかワンピースだったと思う。そして、例の学ラン組はいつものとおり学ランを着ていた。
式は予定どおりに進行し、校長が祝辞を述べている最中に、それは起こった。
数名の人間が突然、会場内に乱入し、卒業式が中断したのである。
闖入者はヘルメットを被り、タオルで覆面をしていた。子供の頃、テレビで見たことのある 《全共闘》 そのままの格好だった。覆面の男たちは壇上に立ち並び、拡声器をもったリーダー格の男が叫んだ。
「我々はァァァァァァ〜!!」
そのあとは音声が割れていて、何を言っているのかさっぱりわからない。
卒業生、在校生の一部、父母、教師でいっぱいの会場は騒然とする。祝辞を中断された校長は唖然とするばかりだった。
その時、卒業生の坐っている席から、何人かが立ち、つかつかと前方に歩み寄った。彼らは全員が学ランだったのである。学ランは覆面男たちを壇上から引きずりおろし、彼らに鋭いパンチを何度も浴びせた。一瞬遅れて、男性教師たちが闖入者を捕え、場外へと連れ去った。
ここまでの出来事は1分もかからない間に起こり、そして終わったのである。
式は何事もなかったかのように再開されたが、もはや誰も祝辞など聞いてはいなかった。そして、式の終了後、学ランたちに向けての声援の歓声が会場内に響いた。
あとから担任に聞いた話だが、卒業式を妨害した覆面男たちは学校の通報により、警察に引き渡されたらしい。また、彼らは母校の卒業生・在校生ではないということだ。
それともう一つ、僕が記憶に留めていることがある。覆面男たちを捕まえる騒動の間、教師を含め、誰も学ランたちの行動を止めようとはしなかったのだ――そんな時代の話である。
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僕が通っていた高校は都立である。今はどうか知らないが、当時はちょっとした受験校だった。1970年代の後半をどっぷりとこの学校で過ごしたわけだが、当時の都立高校は、70年代初めまで吹き荒れていた学園紛争(そう、高校にも紛争があったのだ)の嵐はとっくに消え去り、無気力・無責任・無感動の 《三無主義》 が定着していた――そんな時代の話である。
私服の学校だったのだけれど、昔は制服があって、学園紛争の頃の生徒会が学校当局と戦った末に、「服装の自由」 を勝ち取ったのだ、という噂というか伝説というか、そういう話が生徒たちの間に伝わっていた。
私服(生徒手帳には 「自由服」 と書かれていた気がする)だから、僕はふだんジーンズを履いて登校していた。ぱりっとしたブレザーにスラックスの者もいた。女子の服装はもっと幅が広く、ちょっとヤンキーがかったのから、スーツにパンストの子までいた。しかし、「自由服」 という建前上、常識的な範疇なら何を着ても構わないはずなのに、あえて詰襟の学生服(いわゆる学ラン)を着用するのは、かなり勇気が必要だった。学年に数名、学ラン着用者がいたのだが、彼らが何を考えているのか、僕にはわからなかった。
さて、卒業式である。
さすがにジーンズというわけにいかず、僕は初めて買ったスーツを着て、卒業式に出席した。他の大部分の生徒も男子はスーツかブレザー、女子はスーツかワンピースだったと思う。そして、例の学ラン組はいつものとおり学ランを着ていた。
式は予定どおりに進行し、校長が祝辞を述べている最中に、それは起こった。
数名の人間が突然、会場内に乱入し、卒業式が中断したのである。
闖入者はヘルメットを被り、タオルで覆面をしていた。子供の頃、テレビで見たことのある 《全共闘》 そのままの格好だった。覆面の男たちは壇上に立ち並び、拡声器をもったリーダー格の男が叫んだ。
「我々はァァァァァァ〜!!」
そのあとは音声が割れていて、何を言っているのかさっぱりわからない。
卒業生、在校生の一部、父母、教師でいっぱいの会場は騒然とする。祝辞を中断された校長は唖然とするばかりだった。
その時、卒業生の坐っている席から、何人かが立ち、つかつかと前方に歩み寄った。彼らは全員が学ランだったのである。学ランは覆面男たちを壇上から引きずりおろし、彼らに鋭いパンチを何度も浴びせた。一瞬遅れて、男性教師たちが闖入者を捕え、場外へと連れ去った。
ここまでの出来事は1分もかからない間に起こり、そして終わったのである。
式は何事もなかったかのように再開されたが、もはや誰も祝辞など聞いてはいなかった。そして、式の終了後、学ランたちに向けての声援の歓声が会場内に響いた。
あとから担任に聞いた話だが、卒業式を妨害した覆面男たちは学校の通報により、警察に引き渡されたらしい。また、彼らは母校の卒業生・在校生ではないということだ。
それともう一つ、僕が記憶に留めていることがある。覆面男たちを捕まえる騒動の間、教師を含め、誰も学ランたちの行動を止めようとはしなかったのだ――そんな時代の話である。
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