ひまわり
2008.11.29 [ Edit ]

仕事関係でお世話になっているRさん夫妻の仕事場を訪れたのは、7月も終わりに近い日の午後だった。
Rさん夫妻は、数年前からこの場所で住み込みのビル管理人の仕事をしている。僕が訪問した日は、奥様が不在で、冷たい麦茶と奥様お手製の漬物を、Rさんが出してくれた。
仕事の用件が終わり、そろそろ引き上げようかというところで、夕立が来たため、少し雨やどりをさせてもらうことにした。
窓から外を眺めると、ビルの駐車場とその向こうにコンクリートの塀が、雨に濡れていた。
去年までは、毎年、塀づたいにひまわりが植えられ、今の時期には大輪の花が隣家を覗き込む風に咲いていたものだが、今年はひまわりが植えられていなかった。
「女房の父親が入院しましてね。末期の癌だっていうんですよ。もう年なので、手術するかどうかもわからない状態なんですが、女房がずっと病院に通いつめているところなんです」
Rさんは、額の汗を拭い、煙草に火をつけた。
雨が止んだので、僕は暇乞いをし、外に出た。
塀の上に、虹が出ていた。
秋の風が吹き始めた9月上旬、僕はRさん夫妻の仕事場を再び訪れた。この日も、あいにく奥様は不在で、結局、お父様の様態などについて窺うことは出来なかった。
仕事の話を一通り済ませたあと、僕とRさんはどちらからともなく、昔話を始めた。
サラリーマンとして猛烈に働いた若い頃のこと。結婚した頃のこと。子育てのこと。転勤を繰り返したこと。
すっかり、話に夢中になり、気がつくともう夕方になっていた。
帰りしな、ふと足元を見ると、玄関の脇の目立たないところに、小さな鉢植えのひまわりが咲いていた。

「今年も咲いたんですね」
僕がそう言うと、Rさんはにっこりと微笑み、会釈をした。
僕も笑顔と会釈を返してから、帰路についた。
※フィクションです。
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