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From Tokyo to the world.

三日月を作る少年

2008.08.30 [ Edit ]

三日月工場 - よもやま話でガチャガチャ☆ポン


 今年の学芸会で演じる劇 『三日月工場』 の台本が配られたのは、月曜日の学活の時間のことだった。
 学級委員は、配役を決めるため、立候補、推薦、投票の司会進行をつとめていた。主役の少年と少女、工場長、主任、女工たち、村人たち、ナレーター――配役が次々と決まっていく。続いて、大道具、小道具、照明、衣装。それぞれの係が残りの者に割り当てられる。

 マサヨシは、無口な男子だった。台本を読むのも、ちょっとキビシイかもしれない。担任の馬場先生は、彼を小道具係に推薦し、全会一致でそれに決まった。
 マサヨシは、三日月を作ることになった。

 劇の練習は、それから1週間続いた。
 その間、校庭のポプラの樹の下で、マサヨシはずっと三日月を作り続けた。ベニヤ板に円を描き、糸ノコでそれを切り、紙やすりで磨き、ペンキで金色に塗る。1週間後には、直径1メートルの猫の爪のような三日月が出来上がっていた。大道具係は、マサヨシから三日月を受け取り、天井からぶら下げるために、針金を取り付けた。
 学芸会の前日、通し稽古が行われ、書き割りの工場の上のほうに、ベニヤの三日月が吊るされた。

「ちがう!」
 そのとき、マサヨシが大きな声をあげた。
 彼は黒板に、チョークで東の工場の絵を描き、地面の下から上がってくる太陽と、上空の月の位置関係を記した。みんな、明け方の月なんか、実際に見たことがなかったから、それが本当なのかどうかわからなかったが、馬場先生は、マサヨシの言うとおりだと言った。
「マサヨシ。三日月の役、やりなよ」
 誰かがそう言い、みんなが頷いた。

 学芸会の日。
 村中のひとたちが、体育館に集まった。
 幕が開き、劇が進行していく。
 マサヨシは、黒いタイツの衣装を着て、書き割りの大道具の影で出番を待っていた。
 劇は終盤を迎え、夜明けの場面となる。暗転から次第に明るくなる照明。主役の少女の科白と同時に、東の三日月工場から出来たての三日月が昇る。照明が当たり、役者たちは全員、ゆっくりとのぼる下弦の月を見つめる。完璧な造型の美しい月に、客席からため息が聞こえるようだ。

 幕。
 そして、カーテンコール。あれ? マサヨシがいない。
 工場長役の男子が、マサヨシを引っ張ってくる。満場の拍手。
 全員揃ったところで、お辞儀。
 もちろん、マサヨシも一緒に。


  (了)


※フィクションです。


(初出2004年。加筆・修正2008年)


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