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FETISH STATION

From Tokyo to the world.

樋口一葉 『われから』

2009.04.30 [ Edit ]

 親子二代にわたる夫婦の愛憎劇という設定は、『嵐が丘』 を思わせる。本作の執筆当時(明治29年)、『嵐が丘』 の翻訳が出版されていたかどうか定かではないが、おそらく作者はかの英国文学の粗筋くらいは聞き及んでいたのではないだろうか。
 それにしても、不条理な結末であり、誰も救われない。


追記

 検索したら、こんなページが。

 御承知のように明治学院大学の前身となる明治女学校に集まった青年たちが「文学界」の同人です。西洋文学に通じ、プロテスタントとしてキリスト教信仰を持っている近代的なインテリの始まりのような人々です。そのなかには北村透谷もいたし、島崎藤村もいた、馬場孤蝶、戸川秋骨、平田禿木、星野天知といった人々がいました。彼等は『にごりえ』のお力が住んでいたような一葉最晩年の丸山福山町の銘酒屋に隣接した家をサロンのようにして集まっていたんです。彼等は一葉のことを、小説『やみ夜』のヒロインにちなんで「お嵐さま」とか、『嵐が丘』にちなんで「ブロンテ」などと呼んでいたそうです。この「文学界」同人の前にいた一葉の姿。

 フェミニズム的文学論の”今”―樋口一葉研究を例に―


 樋口一葉はやっぱり『嵐が丘』を読んでいたに違いない!

追記・2

 読み終わったときは、「『嵐が丘』 に似てるなあ」 と漠然と感じた程度だったのだけれど、あとからじわじわ効いてきて、とうとう数日後の夢に出てきた。
 夢の中で、僕はある登場人物になっていたのである。ひどくうなされたらしく、びっしょりと汗をかいて目覚めた。
 あらためて、すごい小説だと思った。


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樋口一葉 『ゆく雲』

2009.04.30 [ Edit ]

……手跡によりて人の顏つきを思ひやるは、名を聞いて人の善惡を判斷するやうなもの、當代の能書に業平さまならぬもおはしますぞかし、されども心用ひ一つにて惡筆なりとも見よげのしたゝめ方はあるべきと、達者めかして筋もなき走り書きに人よみがたき文字ならば詮なし、お作の手はいかなりしか知らねど、此處の内儀が目の前にうかびたる形は、横巾ひろく長(たけ)つまりし顏に、目鼻だちはまづくもあるまじけれど、鬂(びん)うすくして首筋くつきりとせず、胴よりは足の長い女とおぼゆると言ふ……


 父親の手紙を代筆したばかりに、娘のお作は許婚・桂次の下宿先へ送った手紙を読まれ、その筆跡のみから器量、体型に至るまで、下宿先の後妻からひどいことを言われてしまう。桂次もまた、お作のことを頓死すれば良いのにと罵る。
 あまりの悪口雑言に、僕は思わず笑い出してしまったのだが、本作はそもそも喜劇である。
 ひどい言われようのお作は、最後まで登場しない。しかし、桂次を婿に迎え、それなりに幸せに暮らしているように思われる。桂次がかつて「のぼせて」いた下宿先の娘・お縫は一人取り残されて、笑みを浮かべるのは隣の寺の観音様ばかりである。


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樋口一葉 『大つごもり』

2009.04.30 [ Edit ]

 主人公・お峯は貧乏な叔父一家を救うために、主家の金を盗む。彼女の運命は?
 身分制度や貧困といった深刻な問題を背景に、次第にある状況へ追い詰められていくお峯の心理と葛藤の描写が素晴らしい。しかし、最後はちょっと意外な方向へ展開し、粋な結末を迎える。
 優れたショートストーリーである。


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樋口一葉 『十三夜』

2009.04.30 [ Edit ]

 外なるはおほゝと笑ふて、お父樣(とつさん)私で御座んすといかにも可愛き聲、や、誰れだ、誰れであつたと障子を引明けて、ほうお關か、何だな其樣な處に立つて居て、何うして又此おそくに出かけて來た、車もなし、女中も連れずか、やれ/\ま早く中へ這入れ、さあ這入れ、何うも不意に驚かされたやうでまご/\するわな、格子は閉めずとも宜い、私(わ)しが閉める、兎も角も奧が好い、ずつとお月樣のさす方へ……


 旧暦九月十三日の月夜を十三夜という。
 主人公・お関は金持ちの男に見初められ嫁に行ってから七年、十三夜の夜に一人実家へ帰ってくる。彼女は息子が生れて後、夫からひどい扱いを受け続けていると打ち明け、離縁状を書いてくれと云う。お関の肩をもつ母。いや我慢しろと説得に出る父。結局、父のいうとおり、「鬼のやうな良人」の元へと戻る決心をするお関。
 と、ここまでが本作の前半である。後半は一転、事態は別の次元へ展開していく。
 悲劇的な物語だが、最初から最後まで明るい月がすべての人々を照らしている。 冷徹さえ感じさせる月明かりだが、そこに苦悩する人間を見つめる作者の優しい眼差しを感じた。


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樋口一葉 『にごりえ』

2009.04.30 [ Edit ]

……行かれる物なら此まゝに唐天竺の果までも行つて仕舞たい、あゝ嫌だ嫌だ嫌だ、何うしたなら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない處へ行かれるであらう、つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時まで私は止められて居るのかしら、これが一生か、一生がこれか、あゝ嫌だ嫌だ……


 銘酒屋の看板娘(要するに遊女)お力の恨み言は延々と続く。彼女の思考はひたすらネガティブである。やがて一人の男の身を滅ぼし、彼の女房子供からは「鬼」と呼ばれるのだけれど、この小説を読んでいると不思議にお力のことを憎めない。


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