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From Tokyo to the world.

谷崎潤一郎 『母を恋ふる記』

2009.04.30 [ Edit ]

 大正8年発表の短編小説。『小僧の夢』とは打って変わって、儚くも美しい夢物語である。
 夢の中では自分が子供に戻っている、ということを我々はしばしば経験するが、そういうとき、幼い頃の記憶はすべて美化され、理想化されている。夢に出てくる母親は、若いころの美しい姿のままである。

 子供の頃聴いた三味線の音は「天ぷら喰いたい、天ぷら喰いたい。」と聞こえたのだという。何度も繰り返される「天ぷら喰いたい」というフレーズが遠い日の母親の記憶につながっているのである。


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谷崎潤一郎 『小僧の夢』

2009.04.30 [ Edit ]

 大正6年に発表された短編小説。60ページちょっとの長さだが、24回にわたって新聞に連載された作品とのこと。『全集』 未収録であり、1990年に 『季刊文学』(岩波書店)誌上で紹介されたレアな小説である。
 「今年十六歳になる商店の小僧」 庄太郎が主人公(=語り手)で、前半は彼の人生観、芸術観が延々と綴られている。(特に、自然主義文学に対する批判は強烈。)しかし、後半は一変し、浅草の見世物小屋に登場する外国人の女催眠術師メリーに魅せられていく不思議な物語となる。

己は始めて自分が今迄夢みて居た甘い美しい想像の国へ、つれて来られたような気がした。そこには浮世の時間もなく空間もなく、たゞたゞ永劫無窮の愉悦と光明とが溢れている許(ばか)りであった。なろう事なら、己はいつ迄もいつ迄も、メリー嬢の魔術に縛られたまゝ、明煌々たる舞台のまん中に、口をあんぐり開いて、観客の嘲笑を浴びて、昏々と眠って居たかった。………


 断っておくと、メリーの催眠術はすべてインチキであり、舞台の上で催眠術をかけられる人々は、主人公を含めて全員サクラなのだ。それでも、この状況でこんな風に気持ちよくなってしまうあたりが、谷崎らしいところである。


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谷崎潤一郎 『一と房の髪』

2009.04.30 [ Edit ]

 大正15年発表の短編。横浜の外国人用アパートを舞台に、関東大震災当日の出来事が語られる。
 ヒロインはロシア革命後、日本に亡命した貴族の夫人・カティンカ。男たちは彼女のとりまきの混血児たちである。(語り手のディックは彼らの一人である。)
 地震のため煉瓦作りのアパートは崩壊、近くに火の手が迫っているにも関わらず、彼らは女を縛って心中しようとしたり、決闘を始めたりして、相当めちゃくちゃだ。後半、何度もどんでん返しがあって、その無茶苦茶な展開がそれなりに面白い。
 最後は 『卍』 (昭和3年発表)とほぼ同じ結末だった。


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谷崎潤一郎 『青い花』

2009.04.30 [ Edit ]

 大正11年発表の短編。主人公の男、岡田と、18歳の少女・あぐりの物語。『痴人の愛』 (大正13年発表)のプロトタイプのような小説である。主人公の内面の描写が延々と続き、かなり観念的だ。ストーリーらしきものといえば後半、横浜に洋服を買いに行くくだりだけである。

………岡田の頭の中にある「女」の彫像が其処に立った。彼はチクチクと手に引っかゝる軽い絹を、彼女に手伝って肌へ貼り着けてやりながら、ボタンを嵌め、ホックを押し、リボンを結び、彫像の周囲をぐる/\と廻る。あぐりの頬には其の時急に嬉しそうな、生き/\した笑いが上る。………岡田は又グラグラと眩暈を感ずる。………

 洋服店のフィッティングルームで、主人公があぐりに「お直し」の終わった洋服を着せていく結末の部分である。絹を「肌へ貼り着けて」やる、という描写が、フェチ心をゆさぶる。


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谷崎潤一郎 『お才と巳之介』

2009.04.30 [ Edit ]

 大正4年に発表された150ページくらいの中編小説。江戸時代を舞台にした 《毒婦もの》 という点、前年に書かれた 『お艶殺し』 に通じるものがあるけれど、本作は全編ドタバタ喜劇である。

 商家の次男坊・巳之介は女中・お才に恋をする。しかし、彼女はとんでもない悪女で、すでに番頭とデキている。巳之介はさんざん貢がされ、むしり取られるのだが、なぜかお才に惚れたまま、ひたすら追いかけ続ける。最後のほう、悪い番頭にだまされて遊郭に売り飛ばされる巳之介の妹はかわいそうだ。
 『異端者の悲しみ』、『細雪』 なども同様だが、谷崎の小説に登場する主人公の妹はたいていひどい目にあうのである。


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